自作農業主義への決別を (日経5月19日 経済教室 より 山下一仁東京財団上席研究員談 ) |
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■農業問題のポイント : |
農業就業者の実情・・・・・・・・・・・・ |
農業は高齢化が進み、人手不足であって雇用の受け皿として注目されている ・ しかし農業の生産額は8兆2千億円でパナソニックの9兆円に及ばない ・ パナソニックの従業員31万人に対して、農業就業人口は300万人もいる ・ そして農業従事者の一人当たりの所得は1ヶ月13万円ほどにしかならない |
農業は人手余りなのだ・・・・・ |
そのようなことを見てみると、農業は人手不足ではなく過剰就労なのである ・ 過剰にいる農業者が高齢化しているのである ・ 収益が低いから農業は後継者もなく高齢化してきた |
他方ぼろ儲けの農作企業も多い・ |
農産物販売額が1億円を超えている企業体は、農家で2470戸、農家以外事業体で2616、合計で5086もある ・ わずか4ヘクタールの傾斜農地で野菜の苗作りに特化して20億円以上稼ぐ農家、苗は外国に委託して15億円を稼ぐ花農家など多数である ・ ただこのように企業的な経営で高収益を上げている農家の多くは、花や野菜など余り農地を必要としない農業分野である |
土地利用型の農業は衰退・・ |
逆にコメなどの土地利用型農業は、関税や補助金などの手厚い保護で守られながら衰退してきた ・ ここに問題ポイントがある ・ ただしこれは政策の失敗で生じたもので、大胆な政策転換をすれば高い収益を上げることができる ・ 雇用の受け皿になりうると考える |
大規模農家なれば収入安定・・・・ |
コメ農家の平均経営規模は1ヘクタール程度であるが、20ヘクタール以上の農家の農業所得は1100万円を超えている ・ ところが如何に示す規制などにより農地は集積されず、農業規模の拡大が阻害されている |
大規模化への阻害規制・・・・ |
@都市的地域と農業的地域との区分による土地利用規制や農地法の転用規制が不徹底であるため、農地が虫食い的な転用に留まっている ・ A転用期待が生じて農業の収益還元価格を上回って農地価格が上昇したので、耕作者の農地購入が困難になった上、所有者が返して貰えない恐れで貸そうとしなくなったこと ・ B高い米価と減反政策によって零細兼業農家が滞留し、農地が集積されず旧態依然としていること などがある ・ C主業農家の農地面積についても、減反政策のためスケールメリットを発揮できない ・ D減反参加で減反面積拡大、品質改良メリットを阻害 などなど、政策が農地資源を減少させてきたといえる |
株式会社にしても問題山積・・・・・ |
株式会社を作って農業へ参入しようとしても、出資者の過半が農業関係者で、しかもその会社の農作業に従事しない限り、農地法上認められない ・ 意欲ある農業者、企業の参入を断っている |
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■農業ビッグバンへの課題 : |
企業の農地賃貸可は前進だが・・ |
今回の農地法改正で一般の企業も農地の賃貸借であれば参入できるようになった ・ これは前進だが、農地の所有権は所得できていない ・ 株式会社の農地取得を認めないのは、農地の所有者が耕作者であるべきだという理念に依然として捉われているからである |
ゾーニング法があるとよい・・ |
また、借り手に対する規制を緩和しても、所有者が転用期待をもつ以上貸してくれないという状況が続いてしまう ・ 欧州連合のようにゾーニングを確固たるものにすれば転用期待がなくなろう ・ 長期的な農地への投資も可能になる ・ 農業ビッグバンになる |
減反法の廃止が待たれる・・・・・・ |
減反を段階的に廃止できれば、コストの高い兼業農家は耕作を中止し、農地を貸し出すようになる ・ そこで一定規模以上の主業農家や新規就業者などに直接支払いを交付し、地代支払い能力を補強すれば、農地は耕作放棄されずに主業農家へ集めることができる ・ 品種改良が進み、輸出競争力もつき、輸出入の価格も上昇して行くであろう |
合わせてコメの先物市場を・ |
コメの先物市場を創設すれば、先物リスクヘッジ機能によって農家所得は安定するし、財政による価格下落対策は不要になる ・ これらによって収益の向上した農業に、経営・商品開発・マーケティング等の知識・経験をもった人材を送り込むことができれば、雇用の創出だけでなく農業の発展にもつながる |
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農業の今を読み解く (日経5月3日、30日、7月18日より ) |
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■農業改革への書 : (日経5月3日より) |
「農業が日本を救う」・・・・・・・・・・・ |
PHP研究所2009年財部誠一著「農業が日本を救う」
本書はまず農業外企業の農業参入の事例を取り上げるが、如何に失敗と挫折に満ちたものであったか ・ しかし技術とノウハウの蓄積が功を奏し、成功する企業も出始めたこと ・ 一方農業内部からこれまでの殻を破って成功を収める農業者も現れていること ・ ただし成功者は野菜中心の園芸作物である ・ 基幹作物のコメの姿は見当たらない |
農地問題がやはりネック・・・・ |
本書がたどり着いた結論はやはり農地問題である ・ 農業外利用のてめ転用されれば巨万の富をなす ・ だから猫の額のような農地でも手放さない ・ そして農地所有は耕作者に限っているのに、39万ヘクタールもの農地が耕作放棄状態にある |
農協があるから進まない・・・・ |
農地規模拡大が進まないのは農協があるからだ ・ 農家数が減れば組合員数も減る ・ それは政治力への悪夢となる |
「農協の大罪」・・・・・・・・・・・・・・・・ |
その農協を鋭くえぐるのが、宝島新書2009年、山下一仁著「農協の大罪」である
戦後日本の農政は農協・自民党・農水省のトライアングルで形成されてきた ・ 日本の農協は加入脱退が自由な自発的協同組合として発足したものではない ・ 戦時の統制から国策代行機関であった農業会が政治団体化していったものである |
自民党の票田となっている・・ |
農協の組織票が欲しい自民党、その見返りに保護政策を引き出す農協、それを補助金で支え予算を増やす農水省と三者の利害が一致し、国民的見地とはかけ離れた農政が展開されてきた |
農政トライアングル強化へ・・ |
こうした数頼みの農協は、一人一票という協同組合原則の下、小規模兼業農家主体の政策に傾斜していった ・ それが減反政策を維持し、ばら撒き的補助金を生み、日本の農業を衰退させつつ、農政トライアングルは益々強固なものとなっていった |
「コメ国富論」・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
角川SSコミュニケーションズ2009年、柴田明夫著「コメ国富論」も小規模温存になっている減反政策をやめ、コメの輸出可能性を探れと論じている |
アジアコメ共同備蓄構想・・・ |
本書は縮小均衡へ陥る今の農政を大増産へと転換し、日本のコメを世界へと訴える ・ 具体的にはアジアのコメ共同備蓄構想と食料安全保障政策である |
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■企業の農業参入が加速 : (日経7月18日より) |
規制緩和を背景に進展しだした・・ |
企業の農業参入が加速してきた ・ 小売や食品関連の大手が履歴の明確な野菜を低コストで自社生産する動きが広がることにより、農業活性化にも繋がりそうである ・ ただコメ関連での動きはない |
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小売り |
イオン
(2009年) |
茨城県で農地リース方式で参入。
1〜3割安いPB野菜販売へ。 |
セブン&アイ
(2008年) |
千葉県に農業生産法人。
今後2年以内に全国10箇所に法人を拡大。 |
外食・食品 |
サイゼリア
(2000年) |
7月からルッコラなどを水耕栽培。
店舗でサラダなどに使用。 |
モンテローザ
(2008年) |
牛久市から農地を借りて野菜を栽培。
居酒屋「白き屋」などで使用。 |
カゴメ
(1999年) |
全国8箇所の大型菜園でトマトを栽培。
食品スーパーなどへ供給。 |
その他 |
JR東日本
(2009年) |
茨城県石岡市の農協と共同で法人を設立。
駅のそば屋の食材に利用。 |
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イオン、3年で10農場・・・・・・・・・・ |
イオンは企業が自治体から農地を借りる「農地リース方式」を使い、牛久市の2.6ヘクタールの土地で小松菜や水菜、キャベツなどを生産する ・ 参入のための新会社を7月10日付けで設立した ・ 生産した野菜は青果市場を通さず自社の物流網活用でコストを削減し、店舗価格を抑える ・ 3年後には九州まで農地を広げ、PB野菜の全国販売へ進展させる予定 |
セブン&アイも全国展開へ布石・・ |
イオンと並ぶ二大小売のセブン&アイは、農家や農協との共同出資で千葉県に農業生産法人を設立する形で2008年に参入した ・ 農協や農家と連携しながら、今後2年間に全国に10箇所農業法人をつくる |
居酒屋ワタミも60Haを所有・・・・・・ |
先行参入した食品関連大手も事業拡大に動いている ・ 居酒屋のワタミは生産した野菜を自社の約600店でサラダなどに使用 ・ 2013年までに農場規模を25%広げる計画である |
安全をめぐる問題から加速・・ |
食の安全を巡る問題が後を絶たない中、企業は生産履歴のはっきりした商品を扱っていることを消費者へアピール ・ 農業の担い手不足で耕作放棄の土地が拡大しているため、野菜の安定調達基盤をつくる狙いもある |
政府農地リース方式を認可・・・・・ |
政府は2000年以降、企業の農業参入を後押しする制度を整備してきており、2005年からは農地リース方式が全国に認められた ・ 同方式で農地を借りられるのは市町村の指定した場所に限られ、耕作放棄地も多かったが、今年6月に成立した改正農地法が年内にも施行されれば賃借が大幅に自由になる ・ 同時に原則10%だった農業生産法人への企業の出資制限も緩和される |