どうする 証言食違い、自白の判断、量刑判断 
                ( 実務教育出版「裁判員のころがよくわかる本」小林剛監修 、朝日新聞 より ) 


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こんなときどうする  
自白と量刑での判断
証言が食い違うとき
 裁判員は質問できる
被告の自白と黙秘権に注意
 . 時効と冤罪防止で考えること
 冤罪事件には特徴がある
複数事件と共犯のとき
 . 録音、録画があっても疑問
量刑は勘と経験が頼り
 裁判員にはルール化要
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  こんなときどうする    ( 実務教育出版「裁判員のころがよくわかる本」小林剛監修 より ) 
■証人と被告の証言がくいちかっがらどうする :   
審理にはいろんな人が登場・・・・・ 事件によっては、被害者や遺族の他にもいろいろな人が出廷証言することがある ・ たとえば目撃者、被告や家族の同僚、毛髪や指紋の鑑定人、共犯者などなど
   雑多な話が飛び交う・・・・・・・ 証人や被告には立場の違いがあるので、断片的な話になったり、矛盾した話になったりさまざまです ・ どちらか一方が正しいともいきません ・ 両者話のなかにはどうしても間違えが入ってしまいがちです
   証人が全て信実とは限らない 証人は、証言の前に「偽証しない」と宣誓することになっています ・ しかし思い込みがあったり、時間がたって記憶があいまいになったり、あるいは云いたくなく伏せていることもあるかも知れません ・ 裁判員は証言や証拠を全て鵜呑みにせず判断することが求められます   
証人も証拠も正しいとは限らない・ 科学的捜査が発達した現代であっても、人間が判断する以上証拠などに誤りが生ずることもある      
   直接証拠:うそ言ってないか・ 被害者の証言、被告の自白、第三者の目撃証言などが直接証拠であるが、ウソを云っていないか、検察官・弁護人質問で誘導されていないか、記憶があいまいになっていないかなどチェックする必要がある      
   間接証拠:無理憶測では?・ 被告の動機、被告が犯行現場にいたことを示すもの、被告の指紋などが間接証拠になるが、調査者によっては違った結果がでることもあるし、動機が犯行に及んだとも断言できないので、それらが絶対的なものでないことに注意しながら意見を注意深く聞いていく必要がある   
裁判員も質問することができる・・・ 裁判員は、裁判長に一言告げれば被告や証人に対して質問することができる ・ 検察官や弁護人の一通りの質問・審理が行われた後で、裁判員は質問をすることができる     
   答えを誘導した聞き方の例・・ 検察官や弁護人は、いろいろな決まりごとを守りながら質問しますが、答えを誘導する質問もすることがあるので要注意です ・ 例えば検察官が証人に対して「犯人は黒い服を着ていましたか?」との質問は、「はい」か「いいえ」の回答になるが、暗いと黒に見えがちな青い服も、黒としてしまうこととなる     
   プライバシ侵害ならぬよう・・ 質問の際、証人や被告人のプライバシー侵害にならぬよう配慮をして発言をしたい ・ 例えば被害者遺族に故人のプライバシーについて質問したり、性犯罪事件で被害者に犯行時の状況をきくときなど注意が必要である
       
■被告の自白と黙秘権での注意 :   
自白は強制ではなく任意性必要・ 強制での自白は、裁判で証拠としては採用されない ・ 警察や検察の捜査段階での自白であっても、公判の法廷での自白であっても、被告に不利となる自白は有罪とすることができないとされている       
   自分が話し出すものが自白・ 例:被告「けがをさせようと思っていなかったのですが、はずみで背中を突き飛ばしてしまい・・・・」などが自白    
   秘密暴露のものは自白・・・・ 自白に真犯人しか知らないはずの情報(秘密の暴露)が含まれていれば、強制された疑いは少なくなり自白となる ・ 捜査でまだ分かっていないもの、例えば「凶器の捨て場所」「検視が見落としている暴行箇所」などの自白があった場合       
被告には黙秘権が認められる・・・ 被告は言いたくないことは言わなくてよい ・ 取調べでも公判ででも黙秘することができる ・ それなので、警察官は容疑者の取調べにあたって、あらかじめ黙秘権があることを伝えておかなければならない   
   すべて証拠で立証を・・・・・・・ 刑事裁判では、検察官が起訴事実のすべてを証拠で立証しなければならないという責任を負っている ・ 裁判員も被告が黙秘したからと云って被告に不利な判断をしてはならない ・ 証言・証拠からの判断が基本である
              
■時効と冤罪防止で考えること :            
時効の長さ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 拘留(1年)、罰金刑・懲役5年未満罪(3年)、懲役10年未満罪(5年)、〜、無期懲役罪(15年)、死刑対象となる罪(25年)
   何故時効があるのか・・・・・・ 事件発生から長い時間がたってしまうと、証拠を集める捜査が難しくなるし、事件の社会的影響も風化しているとみなされるからであるといっている ・ ただし事件の犯人が海外へ逃走した場合は、時効までの時間は停止されることになっている 
   時効直前起訴の場合の判断 長い間逃走し、捕まったものもあれば、直前自首してくる場合もある ・ このようなとき裁判員にとっては、時効に対する被告の態度、考え方が検討の要素になる ・ ぎりぎりになって捕まったものは、逃げ続けようとの考えがあった訳で反省の色が少ない    
冤罪は防がなければならない・・・ 死刑判決が出ていながら、冤罪になった事件が戦後だけで4件もある
   冤罪事件には特徴がある・・・ 捜査員による拷問に近い取調べが続いたり、減刑をちらつかせての取引き、被告の記憶のあいまいさを突いての捜査員の押し付けなどが合った場合などに、冤罪を起こしうる可能性がある ・ さらにはウソの自白に合わせた証人の証言や、ウソの自白を証明するものが提出される場合もある 裁判員は冤罪をつくることのないよう、チェックする気持ちを忘れてはならない            
         
■複数容疑、共犯者ありのとき :      
一被告に複数容疑があるとき・・・・ 例えば、放火・殺人・死体遺棄などがあった場合、別々に起訴されていても一緒に裁判する方がよい場合がある ・ このような裁判を「併合事件」と呼んでいる ・ また併合事件も個別に審理、「区分審理」をとる場合もある ・ そのような場合に裁判員が立ち合うと、個々に有罪・無罪の判断だけをすることになり、量刑は後に任せるということになる          
被告複数の場合、判断が複雑・・・ 主犯が誰であるかなどは、口止めなどあって複雑、裁判員は証人の発言を注意深く聞かなければならない ・ 犯行をそそのかした者は「教唆犯」と呼ばれるが、暴力団や麻薬密輸組織などにはこのような教唆犯がいるので注意が必要である           
                   
            
  自白の判断と量刑の判断  (朝日新聞より)   
     
■自白をどう判断する? :   (朝日新聞3月14日より)       
録音、録画で自白を判断可能へ・ 捜査段階で取られた自白調書をめぐって争いが生じるケースは実際の裁判で数多い ・ そのような場合、取調べをした警察官や検察官を証人として呼んだり、被告人本人に取り調べの状況を聞いたり、時間をかけて検証していた ・ 裁判員制度では時間をかけられない ・ そこで活用されるのがビデオである 
   しかし短い録画では不十分・ 上映時間は数十分程度なので、それで自白調書の内容が信用できると判断していいわけではない ・ 取調べの一部を録画するのでは不十分との意見が根強く、全取調べを録画すべきと弁護士連合会は求めている            
自白の任意性重視を・・・・・・・・・・ 実際にDVDが再生された裁判でも、裁判所は自白の任意性をすべて認めていない ・ 「自ら進んで供述している」と録画の有用性を認めた判決が多い ・ 裁判員はよく事情を判断し、本当に自白したのかを判断する必要がある          
   総合的に判断すること・・・・・・ 裁判員は、再生された映像を参考にしながら、物証や目撃者の証言、科学的な鑑定結果、捜査官や容疑者の発言メモなどをよくみて、慎重に吟味することになる            
                
■量刑、あなたの判断基準は :  (朝日新聞H190513より)            
勘と経験が頼りに・・・・・・・・・・・・・・ 裁判員になると悩むことになりそうなのが量刑である ・ これまでプロの裁判官は刑の重さをどうやって決めてきたのであろうか
   刑法等の法律で規定はある・ ただ規定は「人を殺した者は、死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役に処する」と巾が広い ・ この中での方程式がない ・ 米国では量刑表があって、犯罪の重さを縦軸に、被告人の犯罪暦を横軸にとってマス目ごとに刑の範囲を細かく決めている    
   日本の裁判官は量刑相場は 日本の裁判官は、過去に似たような事件ではどれくらいの刑だったのかに注目し、ほかの裁判官だったらどうするかを考える ・ 相場はいわば「勘と経験」で身につけてきていた  
   求刑の8がけの考えがある・・ もう一つの有力な考え方が「求刑の8がけ」という考え方である ・ 一審の判決が求刑にそったものでなくても、検察側が控訴すれば高裁では8割がた主張が認められている ・ 量刑と求刑は密接な関係があるようだ 
動機は?悪質か?視点ひろく・・・ 法廷で証人や検察側の話を聞いて後、別室で評議に入る ・ まず起訴状に書かれた罪を被告人が間違えなく犯したかを判断する ・ 次に決めるのが量刑だ            
   裁判官が参考資料を示す・・ まず裁判官が「似たような過去の例」を示す ・ そして広い視点から考え議論する(@犯行は悪質か、A動機や方法は、B結果は重大か、C前科はあるか、D被告の年齢は、E犯行後の態度は、F被害者の感情は、G刑が犯罪の抑制につながるか〜〜)            
   議論のうえで重要なのは・・・・ 刑務所での現状、受刑者の出所後の実情、罪を犯した人を立ち直らせるシステムがあるか、など裁判員が認識できるようにすることが重要である ・ 必要最低限の情報は裁判所から提供すべきである        
ルールの明確化が必要・・・・・・・・ 死刑はどのように考え執行されているのか、裁判員はきちんと知る必要があるのだが、法務省はその情報をほとんど開示していない ・ 同様の事件で死刑になったり無期懲役になったりしているが、量刑のルール化が求められる ・ 懲役刑の年数見直し変更がすすんでいるが、この機会にルール化を進めて欲しい